スイスの有権者は2026年6月14日、極右政党・連邦民主同盟(UDC)が推し進めた国民発議を55%の反対票で否決した。この発議は、同国の常住人口を2050年までに1000万人に制限する内容だった。調査機関gsf.bernの即日集計により、投票所閉鎖からわずか30分後に結果が公表された。事前には接戦が予想されていたが、「反対」陣営が明確に勝利した形である。
否決された国民発議の狙いと背景
この発議案を提出したのは、スイス最大の政党であるUDCだ。同党は、常住人口が2050年までに1000万人を超えないよう法的上限を設けることを目指していた。現在、スイスの人口に占める外国人の割合は25%超に達しており、同国は国連開発計画(UNDP)が算定する人間開発指数(HDI)で0.967と世界最高水準を誇る。発議の推進派は、移民の急増が様々な社会問題を引き起こしていると主張し、次のような具体的な弊害を列挙した。
- 住宅不足と家賃の高騰
- 無秩序な都市化
- 交通渋滞と鉄道の過密
- 犯罪の増加
- 医療制度の限界
- 教育の質の低下
経済団体連合Economiesuisseの理事モニカ・リュール氏は、国営放送RTSに対し「非常に安堵し、喜んでいる」と述べ、否決を歓迎した。
人口制限案がEUとの関係に与えた影響とは
もし本発議が可決されていた場合、スイスと最大の貿易相手である欧州連合(EU)との関係は深刻な打撃を受けていた可能性がある。スイスはEU非加盟ながら、人の自由移動に関する協定を結んでおり、人口上限の設定はこの枠組みに真っ向から抵触するものだった。連邦政府、議会、主要政党、労働組合、経済団体のすべてが反対に回った。リュール氏も「我が国とEUとの関係にとって重要な結果だ」と述べ、経済界の安堵を代弁した。
なぜ極右政党UDCは移民制限を求めたのか
UDCは、とどまることを知らない移民の流入がインフラや公共サービスを限界まで追い詰めていると主張していた。具体的な脅威として、住宅不足、家賃急騰、都市の無秩序な拡大、道路の渋滞、鉄道の混雑、そして犯罪の増加や医療・教育の質低下を挙げた。しかし、国民の大多数はこの危機感を共有せず、現行の移民政策維持を選択した。この結果は、高度な生活水準を誇るスイスであっても、極右の排外的な主張が必ずしも支持されないことを示している。
同日の別の投票で可決された市民服務厳格化
同じ日の国民投票では、市民服務(代替勤務)へのアクセスを厳格化する法案が承認された。この背景には、ウクライナ戦争の長期化や地政学的緊張の高まりがあり、各国が国防の強化に動いていることがある。スイスでは市民服務は兵役の代替措置として認められているが、今回の承認により条件が厳しくなった。この結果は、有権者が対外安全保障には厳しい姿勢を示す一方で、国内の人口制限には反対するという、やや複雑な政治的スタンスを映し出している。
否決の直後、何が変わるのか
UDCにとって、今回の否決は看板政策の敗北であり、大きな政治的挫折となる。連邦政府は反対の立場を貫いたため、現在の移民政策は維持され、1000万人の法的上限は設けられない。EUとの関係は安定し、経済界は外国人人材の確保が途絶えないと歓迎している。特に医療やテクノロジー分野での労働力不足を補う移民の流入が続く見通しだ。
よくある質問
スイスには2050年までの人口制限が存在するのか?
いいえ。今回否決された発議案は2050年までに1000万人の上限を設けるものだったが、55%の反対により却下された。現在、法的な人口制限は一切存在しない。
スイスの外国人比率はどれくらいか?
報道によれば、外国人の割合は人口の25%超である。この高い比率が、極右が制限を主張する主要な根拠となっていた。
UDCとはどのような政党か?
UDCはスイス最大の政党であり、政治的な立場は極右に分類される。2026年6月14日の国民発議の提出者であり、今回の否決で大きな打撃を受けた。
